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バカンスシーズン その2 -プレゼンテーション- [内弟子日記]

 普段、のどかなフランスの農村の一角に静かに佇んでいる先生宅が、バカンスシーズンに入り合宿にやってきたヨーロッパ中の自成道の門下生達でひときわ賑わっています。厳しい稽古、給仕係、バーベキューのコック、庭仕事、と私にとって目まぐるしく忙しい、そして過酷な、それでいて楽しい日々が一日、また一日と過ぎていきます。
 ところがそんなある日、先生から更に宿題をもらいました。それはプレゼンテーションです。私が日頃読んでいる本や稽古を通して理解した事、考えている事、疑問に思っている事などについて皆の前で発表せよというのです。もちろんフランス語で、です。
 「んな無茶な!」私のフランス語については、先にお話しした通りです。道場稽古に於いての説明やコミュニケーションはある程度取れるようになっていましたがプレゼンテーションレベルのフランス語となれば話しは別です。普段の道場稽古の中では相手と会話し意思の疎通が出来ている事を確認しながら進める事ができますが、プレゼンテーションでは、こちらが一方的に皆の前で話す訳ですからはるかに正確なフランス語を話す事が要求されます。
 「きっと半分も理解されないに決まってる!まいったなあ~」と、ついため息混じりのワインがすすみます。どんなに忙しく働いてもそれが肉体を使うだけのものなら大した事ではないのですが、それと並行して課せられるこのような知的作業は私にとっては実に厄介なもので、いっこうにはかどりませんでした。それは次第にプレッシャーとなって、ただでさえ稽古で疲れている私の身体に重くのしかかってきました。
 夕食が終わって皆が思い思いにだんらんを始める頃、「じゃあそろそろ始めようか!」いかにもそんな雰囲気になってきました。と、その時その重圧にいよいよ耐えきれなくなった私は思わず先生の視界から姿をくらましてしまいました。そして、ビドッション(飼い犬)のところにいき、いつお呼びがかかるかと冷や冷やしながら犬相手に一応本番のシミュレーションをしていました。
 ところが、先生はすっかり忘れてしまったようで結局その日はお呼びがかからずプレゼンは免れる事が出来ました。私は、「この手は使えるかもしれない!このまま逃げ切ってなんとかやり過ごせないかなあ~」と姑息な事を考え、その次の日もまた夕食が終わる頃さりげなく席を外し全くやる必要のない庭の木の剪定を始めたりしました。ある人が話しかけてきます。「まだ働いてんのか!内弟子って大変だな!」「まあね!(本当は違う意味で大変なんだけどね!)」 そうして二日目も「姿くらまし作戦」は成功しました。
 そしてその次の日、例によってだんらんが始まる頃を見計らって席を外しました。今度の現実逃避行の旅はキッチンでした。ところが私が無意味なやる気を出して皿洗いをしていると、一人の男がやってきて「おいケン!とうとう見つけたぞ!神妙にお縄を頂戴しろいっ!」私にはそう聞こえたのですが実際は、「おいケン!先生が探してるぞ!プレゼンテーションやるんだってな!頑張れよ!先生-っ!ケンはキッチンにいました!今きますよ~!」と言って、去っていきました。「くっそ~あいつ余計な事しやがって~」と、恨んでみても後の祭り、これで万事休す、です。
 さあ、内弟子ケンの運命やいかに、そしてプレゼンの行方は、、、

つづく

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